2001年6月17日
連続日記小説「三階の住人(仮)」

第7回

誰かしらのいびきで身体も動くようになった。
調子が良いのか悪いのか、頭が眠らない日々が続く。
身体がじっと休んでいるのがわかる。
自分のいびきを数えたりする。
湿気のせいにしようか。一枚はかんでいるだろうし。

それほど好きでもなかった梅雨どきだが、今年はそうでもない。
雨粒奏でる不規則なリズムが、意外と楽しいことに気付いた。
時にはワルツ、時にはタンゴ、激しいビートはドラムンベース。
得てしてジャジーに刻まれるオトたちの淡い色合い。
飽きることがない。次の意識に流れるまでは。

そのためだか、雨の夢を見た。短い夢だ。
自分はなぜだか年取ったおばさんで、朝目が覚めてそのことに気付く。
でも早く家を出てバスに乗らなければならないので、急いで支度をして外に出る。
バスに乗ってから傘を忘れてしまったことに気付いたが、バスは発車してしまっているのでもう遅い。
仕方ないとあきらめる。
すると後ろの席の女性が突然言う。
「ちょっと、おばさん、動かないでよ!
 ただでさえ暑いのに、そんなにもそもそ動いたら暑いでしょ!」
とっさにすいませんと言ったが何のことかさっぱりわからない。
確かにもそもそと動いていたかも知れないが、動いたら暑いというのがわからない。
するとバスの乗客が口々に喋り始める。
「暑いけど動こうとするおばさんの意見に賛成よ。」
「暑いから動くのよ、おばさん。」
「むしろおばさんの動きにはムダがないね。」

動くと暑いと言った女性はばつが悪そうにだまってしまった。
私はあやまろうと思い後ろを振り返ると、女性の座席はお風呂だった。
あれ、このバスは湯船だったの、そういえば私も肩までお湯につかってる。
そうだったの、確かに動いたら熱いわね。
ごめんなさい、悪気があったわけじゃないの。気付かなくて。
「気付かなかったらあやまって済むと思えばいいじゃない。
 むしろあやまったからOKなんて思ってるんなら、あやまり続ければいいのよ。
 ごめんなさいすいません本当に申し訳なく思っています
 ごめんね許してもうやらない二度と本当に
 だめ? だめなの? これだけあやまっても許してもらえないの?
 すいませんすいませんすいませんすいません私はどうすればいいの、
 わかった外に出るわ
 見てごらんなさい外は雨
 雨粒はすべて汚れているの あなた傘持ってないわね残念
 私は持ってるわ じゃあねお先に
 いつまでもお湯につかってればいいわ でも
 いずれ外に出なきゃいけない
 汚れちゃうわよ 汚れちゃうわよ
 それでもいいんならいいじゃない 汚れたらまたお風呂に入ればいいもの
 でも汚れたことにだって気付かなくなる
 砂漠の石は汚れてるんだって思う? むしろきれいステキ。
 じゃあね、さよなら。
 私は傘をさして行くわ、ごめんなさいこの傘は私のなの。」
私はとっさに女性から傘を奪って窓から飛んだ。
地面に叩きつけられる。
外はすごい雨。何とか傘をさそうとする。でもすごい雨。
雨のせいで何も見えない何も聞こえない。
傘は雨の勢いでぼろぼろになってしまいもう役立たずだ。
もっと長い間お風呂に入っていればよかった。
歳をとったおばさんになって脂肪が気になってもお風呂なら安全だったのに。

私は祈る雨が止むように雨が止むように。


つづく



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Last update : 2002/5/3 update by Hiee