チョコレート・パフェ
ゆうじとふたりでいた。
たくさんの商店が所狭しと建ち並ぶ通りを歩いていた。
ここは銀座通りという名前なのだとゆうじが教えてくれた。
東京の銀座にちなんでつけた名前だそうだ。
風景は上野のアメ横そのままだった。

歩きながらタバコに火をつけようとした。
ゆうじはぱっとライターを僕の手から取り、
「ここはタバコはだめなんだ。」と言った。
代わりにと彼は僕にニット帽をかぶせた。
そしてにやりと笑った。

彼は僕の腕を取って路地に連れていった。
かばんやら洋服やらを売る小さな商店のあいだを抜けていった。
ゆうじはふと僕の腕から手を離し
わき道をどんどんと行ってしまった。
置き去りにされた僕は途方に暮れた。

すると急に背後に気配を感じた。
そろそろと振り返ってみた。
明治時代風の背の高い紳士。
焦げ茶色コートに帽子。
何も言わずに彼は後ろに立っていた。

僕は再び歩き出した。
振り返らずとも後ろの紳士がもういなくなっていることはわかった。
いつの間にか周りは庭園。
路地にいたはずがそこは露地。
しばらく行くと目の前ににじり口が現れた。

にじり口から入ると、茶室。
薄暗い室内。誰かが、いる。
暗さに目が慣れるのを、待つ。
坊主頭が見えてくる。深く刻まれたしわがおぼろげに見える。
彼は茶を立てている。
何も、喋らない。

衣擦れに続いて畳の擦れる音。
目の前に花びんが現れる。
白い花びんの腹には魚の画が描かれている。
僕は花びんの口から茶をいただく。
ちょうど良い温度の茶を僕は三回に分けて飲み干す。

飲み干すと同時にコトバが発せられる。
「私のハナシを聞いてもらえるかな?」
僕は無言でうなずく。
「ある男の話だ。88の誕生日に死んだ男の話。」

そこでぱっと目が覚めた。
隣でゆうじがチョコレート・パフェを食べていた。



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Last update : 2002/5/3 update by Hiee