ひい

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風鈴

刻色館に入居して最初の夏、
なりちんと商店街を散歩しているおり、ひとつの風鈴を買った。
寺の鐘をきゅうぅぅーっと小さくしたような形の、ひんやりとした苔色だった。
エアコンに夏が支配されていなかった頃の、
涼の風情に倣おうかなんて特には思わなかったけれど、
あまりに暑い東京の夏が初めてだったからだ。
買ってきて早速、二階の窓際に吊るした。
軽く揺らしてどんな音色かを確かめた。
おおいいねいいねえ、これで少しは涼しくなるっつーもんだ。
が、窓を開け放っていても、風鈴はびくともしない。
窓の外にはベランダがあって、その向こうにあるのは隣家の壁である。
吊るす場所は他に思いつかない。
周りに家が密集しているため、家々の壁に囲まれた空間は空気の溜まりになっていて、
全くと言っていいほど風が吹かないのだ。
団扇であおいでみたりもした。でもそれでは意味がない。
風鈴を見つめながらじっと待ってもみた。びくともしない。

あれから二年が経った。
すっかりその存在を忘れていた風鈴が目に留まった。
試しに揺らして音色を確かめた。
こんな音だったっけな。
そういやまともにこの風鈴の、自らの音色を聞いたことはなかったな。

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