自己再会
夜中であった。冬の風先に人の気配はなく、忍び込んだ、というのが適切な言 い方であるかも知れない。
校門に続いて開ける広場に既にわくわくしていた。時たま夢として蘇ってくる ほどに色濃く残る記憶の景観がまさにそこにはあった。歩を進めれば進めるほど に次から次へと湧きあがってくる記憶に興奮すると同時に、確実にそこにいた少 年時代の自分の姿があらゆる場所に焼きついていた。立ち並ぶ下駄箱、体育館脇 の吹き抜け、吹き抜けを過ぎた先の広い校庭、プール、鉄棒。教室前の花壇、二 階の教室へ上がる階段。水飲み場、また別の水飲み場。
記憶は躁になり溢れ出ることをやめない。
運動会、地区対抗のソフトボール大会、避難訓練、本当に地震がきて校庭に避 難したこと、組体操で僕の右肩に足を乗せていた同級生が転落して失神し救急車 が来たこと。給食を運んでくるトラック、給食の食缶、その食缶をこぼしたこと 、一緒に食缶を持っていた同級生が泣いてしまったこと。掃除の時間、ほうきに ちりとり、ぞうきんで窓を拭いたり床や机を拭いたりしたこと。最初は気に入ら なかったのに段々と愛着を持つようになった穴のあいた机。焼却炉、そこまで運 ぶゴミ。ダンボール小屋を組み立てた広場。ツキヤマと呼ばれていた小さな山。
大きな数字が書かれた塀、クラスの中で僕だけが登れなかった塀。塀の高さの何 と低いことか!
記憶の風景が、そのままその形で現存していることに僕は素直に喜び、子供に 戻って思わず叫んだ。「ワァーオ!!」
少年であった僕は喜怒哀楽をストレートに表情にし、無邪気に笑っていたのだ ろう、か。
当時は無限にも思われた時間のたゆたいが、ぎゅうううぅぅぅーーっっと凝縮 されて、風景のあちこちに宿っていた。